クミアイ化学工業(証券コード:4996)が2025年10月期 第3四半期決算を発表しました。
売上高は前年同期比で増収となったものの、利益面では大幅な減益。特に主力の農薬事業がジェネリック品参入や価格対応によって収益を圧迫しました。
一方で、生成AI需要を背景とした電子材料分野が伸び、化成品事業は大幅な増益を記録。配当は据え置かれており、株主還元姿勢は維持されています。
この記事では、決算のポイントをわかりやすく整理し、今後の投資判断に役立つ観点を解説していきます。
まず、投資家が押さえるべきポイントをまとめます。
- 売上高は 1,344億円(前年同期比 +4.1%) と増収
- 営業利益は 104億円(同 △15.3%) と減益
- 経常利益は 115億円(同 △31.7%) と大幅減
- 主力の農薬事業は苦戦する一方、化成品事業はAI関連需要で急伸
- 配当は年間34円で据え置き(安定配当)
- 通期見通しは据え置き(純利益 109億円見込み)
👉 農薬事業の課題が続く中で、化成品という新しい成長ドライバーが投資家にとって注目材料です。
業績ハイライト
項目 | 2025年10月期3Q | 前年同期比 |
---|---|---|
売上高 | 1,344億85百万円 | +4.1% |
営業利益 | 104億11百万円 | △15.3% |
経常利益 | 115億67百万円 | △31.7% |
四半期純利益 | 90億48百万円 | △29.5% |
EPS | 75.15円 | (前年 106.58円) |
売上は伸びたものの、利益は大きく減少。特に経常利益・純利益が3割近く落ち込んでいます。
背景としては、以下の要因が指摘されています。
- 為替差損の発生(前年は差益)
- 持分法投資利益の減少
- 農薬事業での価格対応による利益圧迫
セグメント別の動向
🌾 農薬・農業関連事業(売上の約8割)
- 売上高:1,081億円(+3.1%)
- 営業利益:99億円(△18.9%)
国内市場では殺菌剤「ディザルタ」や除草剤「エフィーダ」が好調でした。
しかし海外では、アルゼンチン・ブラジル向け出荷が減少し、米国はトランプ関税を懸念した前倒し需要で一時的に伸びたものの、ジェネリック参入による価格対応が大きく収益を圧迫しました。
👉 主力事業でありながら収益性が低下しており、構造的な課題が見え隠れします。
⚗️ 化成品事業(電子材料など)
- 売上高:188億円(+2.4%)
- 営業利益:14億円(+83.9%)
生成AIサーバー向け電子材料の需要増が直撃し、ビスマレイミド類やアミン類の出荷が拡大。
わずか売上の2割弱の規模ながら、営業利益では前年の2倍近い水準に成長しました。
👉 投資家目線では「新しい収益柱」としての存在感が一気に高まったといえます。
🏗 その他事業(建設・電力・物流など)
- 売上高:75億円(+27.1%)
- 営業利益:5億70百万円(△23.7%)
建設事業の新規受注は好調ですが、採算が厳しく利益率は低下。
売上は増加しているものの、利益寄与は限定的です。
5. 財務状況
財務基盤は安定的に推移しています。
- 総資産:2,673億円(前期末比 △81億円)
- 純資産:1,559億円(前期末比 +30億円)
- 自己資本比率:55.7%(前期53.0%)
利益剰余金の積み上げで純資産は増加。財務安全性は十分で、短期的な資金繰り不安も見当たりません。
6. 配当と株主還元
- 中間配当:10円(支払済み)
- 期末配当予想:24円
- 年間配当:34円(前年と同水準)
減益にもかかわらず配当を据え置き。安定配当方針を貫いており、株主にとって安心材料といえます。
7. 通期見通し(据え置き)
会社側は通期見通しを据え置いています。
- 売上高:1,593億円(前年比 △1.1%)
- 営業利益:104億円(△8.4%)
- 経常利益:145億円(△20.8%)
- 当期純利益:109億円(△19.8%)
- EPS:90.55円
👉 下期の回復を見込んでいると考えられますが、為替動向やジェネリック対策次第でブレる可能性もあります。
8. 投資家目線での注目ポイント
(1)農薬事業の構造課題
世界的に農薬市場は拡大傾向にありますが、ジェネリック参入や価格競争が激化しています。
クミアイ化学工業にとっては、長期的に「差別化できる新薬の開発力」が問われる局面。
(2)化成品事業の成長余地
生成AI向け需要は今後も高成長が期待されます。
半導体・電子材料というテーマ性は投資家から評価されやすく、株価の支えになり得ます。
(3)株主還元姿勢
減益局面でも配当を維持。財務の安定性も考慮すると、配当株としての安心感は残ります。
9. まとめ
クミアイ化学工業の第3四半期決算は「売上は増収・利益は減益」という明暗が分かれる内容でした。
主力の農薬事業は依然として逆風を受けていますが、化成品事業が生成AI需要を追い風に大幅成長している点はポジティブ材料です。
投資家にとっての注目は、
- 農薬事業の収益性改善が進むか
- 化成品事業の成長が一過性でなく持続できるか
この2点に集約されます。
株価的には「安定配当+新成長期待」という構図になっており、長期投資家にとってはウォッチを続ける価値がある銘柄といえるでしょう。